<開発のきっかけ>
学生時代に競技スキーをしていた私はある時左右の滑り方に違和感を感じていました。右足が外足の時と左足が外足の時とでは滑り方の感じ方が違っていたのです。違和感を感じつつも社会人となり数年経ったある時、その時に習っていたコーチにこのことを伝えると“体が歪んでいるから左右同じ感覚で滑るのは難しい”と言われ、技術以前の問題とスキーに対するそれまでの関わり方が大きく変わりました。それから自分の体の歪みに意識が向くようになり、自動車を運転している時には下半身がまっすぐ正面を向いているのにも関わらず、上半身は右斜め前を向いていることも気がつきました。なぜ真っ直ぐに座れないのだろう?簡単なはずなのになぜできないのだろう?ともどかしい日が続きました。無理なく美しい姿勢で座りたい!そう強く願った私は「無理なく美しく座る」を目指した製品を研究し始めました。
<坐禅のような座り方>
皆さんはこんな疑問を持ったことはありませんか?なぜ座っていると片方の腰が痛くなるのか?なぜ足が組みたくなるのか?なぜ座っているとつい体制を変えたくなるのか?楽な座り方っていい座り方?そんな疑問に対して延べ15,000万人(2021年12月末)の指導経験と東北大学
鳥光慶一先生との共同研究から改めて多くの方が「真っ直ぐに座っていない」ということが分かってきました。では対局にある真っすぐに座るにはどうしたら良いのでしょうか?最新の研究で座っていることのリスクといった報告を目にする機会が多くなった中で、参考にした坐り方※1が「坐禅」です。坐禅に着目したのには同じ姿勢で長時間座っているという理由でした。座る時間が長い宗教家の方々は短命などのリスクがあるのか疑問を感じて調査をした所、少し古いのですが職業別で宗教家の寿命が一番長いとの報告がありました※2。宗教家の方の食事が特殊など長寿として他の要素があるにしても、何か坐り方にヒントがあるのでは?と考えました。そこで注目したのが坐り方:坐禅というわけです。ここで製品コンセプトが坐禅のような坐り方を椅子の上で表現できないかに決まりました。次に坐禅の坐り方がどのようなものなのか調査をした所、駒沢大学の角田泰隆先生は坐禅の姿勢について次のように述べておられました※3(一部引用抜粋)。
・長時間、身体が安定して、じっとしていることができる姿勢、それが坐禅の姿勢
・この坐禅の姿勢は、肉体的に最も楽な、理想的姿勢である。坐禅は決して苦行ではなく習禅ではなく、坐禅そのものが安楽の行であり
理想の状態
<坐禅と上虚下実>
更に調査をしていくと坐禅とは体が「上虚下実(じょうきょかじつ)」の状態ということが分かりました。どのような意味なのか上虚下実の状態を簡単に表現すると、上半身の力を抜き下半身の力を使うことでした。この概念は古くは剣術家
宮本武蔵が著書「五輪書」に剣道における正しい姿勢として記述しています※4。それだけではなく、ヨガ、太極拳、武道、気功、日本舞踊そして多くのスポーツで取り入れられている概念で四股を踏むも上虚下実の状態です。このようにして「無理なく美しく座る」を具現化するための土台が出来上がりました。
※ 1語源の由来は「座る」が名詞で「坐る」が動詞です。多くの調査報告書で「ざぜん」を「坐禅」と表記しています
参考文献
※ 2日丸哲也. 職業別にみた平均寿命の比較. 体育学研究, 1963, 8(1), p.289.
※ 3角田泰隆. 坐禅. 駒澤大學禪研究所年報, 2017, 29, p.246[21]-244[23].
※ 4浅見高明. 温故知新のバイオメカニズム. バイオメカニズム, 1980, 5, p.1-2.